セコさと意地だけで挑むマラソン大会や、しみじみとした日常を綴ります。



   
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プロフィール

まんた1968

Author:まんた1968
数年前からランニングを続けている奈良県在住のオッサンです。
年に二、三回ですが、ウルトラマラソンにも挑戦しています。
タイムは凡庸なものですが、完走を目標に意地で走りつづけることを得意としています(笑)。

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ある老夫婦の話・中編

   
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 〈前回の続き〉
 さて、私が幼い頃、近所に住まいしていたその老夫婦は、どういうわけだか私がまだ生まれる前から、我が家と親しくしていたらしい。親戚でもなく、ただのお隣さんに過ぎないのだけれど、老夫婦の住んでいた借家に風呂がなかった頃は、我が家の風呂に毎日入りにくるほどの関係だったと、長じてから両親に聞かされた。私にはよく分からないが、昔はそんな近所付き合いが当たり前だったのかもしれない。

 老夫婦には子供がなかった。そのせいか、私が幼稚園に行く頃になると、月に二三度、日曜日には私を家に招き、夕食を食べさせてくれた。
 おばちゃんの方が夕方近くなると、ふらっと我が家へやって来て、「今日この子、うちで夕飯食べさすからな」とぶっきらぼうに告げ、母に有無を言わせず、引ったくるように連れ去ったらしい(笑)

 母はおばちゃんのそんな態度(悪気は全く無いのだが)に、最初はかなり戸惑ったと言っていた。「漁師言葉」と言えばいいのか、とにかく話し方がつっけんどんなのだ。
 奈良の専業農家の長女として育ち、親に言われるまま見合い結婚した母と、誰にも祝福されない結婚をして、高知を出奔せざるを得なかったおばちゃんとでは、人との接し方も、価値観も、何もかもが違いすぎた。

 逆らってどうなる相手でない。しかし、母としてもムッと来る(怒)……そんな時、母は心中でこう呟いたという。「あの人は、クロートさんやさかい」
 小学生になってから、私も母がおばちゃんのことを「クロートさん」というのを聞いたことがある。クロート……つまり「玄人」なわけだが、当時の私にそんなことが理解できるわけもなかった。

 母の言うとおり、おばちゃんは確かに「玄人さん」に違いなかったが、まだ幼く、あらゆる偏見とは無縁の存在だった私には優しかった。私を本物の孫のように可愛がってくれた。
 老夫婦の家でホームこたつに足を突っ込み、古ぼけたテレビで相撲を観戦しながら、すき焼きをつついた日のことを、今もってはっきりと憶えている。薄味の我が家のそれとは異なり、味付けはいつも甘辛く、子供の舌には大変美味に感じられた。
 私が行司の軍配を真似すると、おっちゃんとおばちゃんはタバコの煙の向こう側で、ニコニコと微笑んでいるのだった。

 後年、母が言っていたが、当時母は、私に対する悪影響をけっこう心配していたらしい(まあ、親だから当然か)。老夫婦のもとに出入りすることで、子供の私が妙な言葉を覚えはすまいか? はたまたタバコを覚えさせられたりすまいか?
 そんな母の危惧は、まったく当たらなかった。若い時分はどうであれ、その頃のおっちゃんはやんわりした物腰の老人で、おばちゃんの方も人前で堂々と喫煙することを除いては(当時そんな女性は滅多にいなかった)、本当に優しい老婆だった。
 
 とは言え、私の周囲にいた他の老人たちとは、何か雰囲気が異なっているのを、子供の私も感じていた。
 エスカレーターのような人生を歩んで来なかった者だけが持つ「どす黒さ」が、二人の芯の部分に、今でも確固として居座っており、ちょっとした仕草や弾みに、そいつがふと顔を覗かせることがあった。取り分けおばちゃんの方に、その回数が多かったように記憶している。おっちゃん以上に突っ張って、生きてこられた証だろう。しかしその「黒さ」でさえも、子供の私には何故だか愉しいことのように思えたのだ。

 【後編に続きます】
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