セコさと意地だけで挑むマラソン大会や、しみじみとした日常を綴ります。



   
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まんた1968

Author:まんた1968
数年前からランニングを続けている奈良県在住のオッサンです。
年に二、三回ですが、ウルトラマラソンにも挑戦しています。
タイムは凡庸なものですが、完走を目標に意地で走りつづけることを得意としています(笑)。

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映画「丑三つの村」

   
 先日、何年かぶりに映画『丑三つの村』を鑑賞した。1983年の公開当時から、そのあまりにも凄惨な内容で物議を醸しだし、何かと問題の多い作品だったので、まさかDVD化されているなどとは夢にも思わなかったのだ。

 実はこの映画、当時私は劇場で観ているのだ。1983年といえば、私は中学生で、この映画はたしか「成人映画(今で言うR-18)」に指定されていたと記憶する。つまり、扱いとしては当時の日活ロマンポルノと同じだったにも関わらず、中学生の私はスクリーンで鑑賞しているのだ。どの様な手で忍び込んだのか、記憶は定かでないが、熱意さえあれば何かと融通の利く、今にしてみれば良き時代であった(笑)

 自己弁護のためにも言っておくが、この映画は決してポルノではない。監督の田中登がポルノ映画出身で、劇中にはどぎつい濡れ場も確かに存在するのだけれど、それは原作である西村望の小説「丑三つ村(徳間文庫)」に忠実であっただけで、別に観客の欲情をそそるのが目的だったわけではない。
 この映画が成人指定を免れなかったのは、むしろ殺戮場面の生々しさにある。

 ストーリーの下敷きになっているのは、俗に「津山事件」と呼ばれている実際にあった猟期殺人事件で、昭和13年の戦時中に岡山県苫田郡西賀茂村(当時)で起こったこの事件は、「津山三十人殺し」などと言われることもある。

 小説家の横溝正史がこの事件に着想を得て「八つ墓村」を書いたのは有名であるが、横溝の場合はあくまでもインスピレーションを受けただけで、実際の事件とはそれほど関係がない。
 対してノンフィクション作家である西村望は、登場人物や地名こそ架空のものに置き換えているが、綿密な取材と作家の想像力を駆使して、現実にあった津山事件を再構築しようと試みた。
 なので西村の小説を映画化した「丑三つの村」は、当然のごとく、一晩にして村人三十人を殺戮し、最期は我が身さえ葬り去った主人公・犬丸(劇中の名前)の視点で展開していく。村一番の秀才だった犬丸青年が、どのような過程を経て一村皆伐を思い立ち、それを実行に移していくのかが、生々しく描かれるのだ。
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 昭和初期の山深い村落で、胸を病んだ犬丸は、次第に孤立の度を深めていく。狭い村で、村民皆が親戚のような世界であるがゆえに、歯車が狂ったら最後、よりいっそう逃げ場を失う。
 犬丸は幼い頃、父母を(おそらく肺病で)相次いで亡くしており、おばやん(父の母親)に連れられて幼い姉と三人で、おばやんの生まれ故郷の村へ越してきた。以来、おばやんが親代わりとなり、小さい田畑を耕し、幼くして両親を亡くした不憫な孫を育て上げた。勉強の良くできた弟の犬丸は、とりわけ祖母の自慢だった。

 映画版「丑三つの村」に欠点があるとすれば、この姉のキャラクターを犬丸と相思相愛の村娘(田中美佐子演じる)に置き換えた点である。いくら生木を裂くようにして別れさせられ、娘が他村へ嫁いでいったとしても、こういう存在が一人でもいる以上、犬丸は、紙一重のところで凶行を踏みとどまったように感じられてならないのだ。なのでこのキャラクターは、原作通り(つまり現実の津山事件通り)、「姉」でいくべきだった思う。小さい頃から姉べったりで育った犬丸の、姉が嫁いでいったことによる喪失・絶望感が、よりいっそう際立つのである。

 姉が去り、暗い家に、おばやんと二人きりになった犬丸。優秀な成績で学校を上がるも、肺を病み、進学も就職もままならず、鬱積するストレスのはけ口を「夜這い」に求めるものの、村の女たちは「半人前」とあざ笑い、犬丸を相手にしない。
 恨みを募らせる犬丸。同時に彼はその過程で、山村で江戸時代から続いてきたであろう、近親者同士の、乱れた性の実態を垣間見ることとなり、やがてそれは「村をもう一度原生の森に戻さなくてはならん」という思想を、犬丸の頭に芽生えさせる。

 私がこの映画・小説でたまらないのは、犬丸が「愛国青年である」という部分である。徴兵を逃れようなどとは露ほど思わず、むしろ男なら、お国のために前線に出て戦うのが当然だと信じて疑わない点である。
 なので長い目で教員を目指せという周囲のアドバイスには耳を貸さず、意気揚々と徴兵検査を受けるが、胸の異常を指摘され、不合格。「なんでですか? もう一度よく診てください」と軍医に詰め寄るも相手にされず、校庭で一人、無念の涙を流すのである。この絶望感が胸をえぐる。

 徴兵検査不合格により、村の女たちは以前にもまして犬丸に冷たくなる。小馬鹿にされつくされ、「最早これまで、生きておっても詮無い」と思い屈した犬丸は、「自分の戦場はこの村である」と己に言い聞かせ、おばやんが可愛い孫にと維持してきたわずかな田畑や山林、自宅までも担保にして銀行から金を借り、大型獣さえ殺傷可能な高価な連発銃やその薬莢、日本刀などを、内密に着々と買い集め始めるのだ。
 村人に復讐するためである。無論、自分も生き残ろうとは思っていない。我が命と引き換えに、自分を嘲笑ったやつらを、一人残さず地獄へ送ってやろう……そう肚を括ったのだ。

 そしてついにXデイ、犬丸は凶行に走る。学ラン姿にゲートル、地下足袋、額には懐中電灯を差した鉢巻、と完全武装の犬丸は、丑三つ刻の午前二時、練りに練った殺戮計画に従って、一気呵成に村の家々を駆け巡り、ひとり、またひとりと小馬鹿にした連中をあの世へ送っていく。
 ものの一時間半ほどの間に三十人を血祭りに上げた犬丸は、その足で峠道を上り、村が一望できる原っぱで、どこか清々した顔つきで連発銃を口にくわえ、足の親指で引き金を引き、計画通りに己を葬り去る。

 犬丸の清々した表情は、目的を成し遂げたことも理由だが、「おばやんを残さずに済んだ」ことも一因である。
 決行の少し前に、犬丸は「身体がシャキッとする薬」と偽り、祖母に農薬を飲まそうとしている。が、その時は祖母が異臭に気付き、未遂に終わっている。
 しかし犬丸としては、「大事をやらかす以上」、祖母をこの世に残して逝くわけにはいかない。なので犬丸は、決行日の丑三つ刻、村人に先駆けて、炉端で眠っている祖母の首を斧で撥ね、真っ先に葬っているのだ。

 このシーンの切なさといったらない。今日まで親代わりとして溺愛してくれた祖母の返り血を顔面に浴び、犬丸は、仏様になった祖母に懇願する。
 「おばやん、俺を鬼にしてくれ! 夜叉にしてくれ!」
 そして犬丸は、出征していく兵隊さんを送り出す際の「万歳三唱」を、自分自身に向かってするのである。「村という戦場」へ今まさに赴かんとする自分に、誰もしてくれない万歳を、自身でするのである。
 この孤独感……犬丸を演じる故・古尾谷雅人の、鬼気迫る演技が胸を締め付ける。何度観てもトラウマになるシーンだ。

 映画「丑三つの村」を観て興味を持たれたら、ぜひ西村望の小説も一読いただきたい。映画版では描かれなかった「犬丸の姉への思い」が記されており、自分の死後、世間から「殺人鬼の実姉」として色目で見られるやもしれない嫁ぎ先の姉に対する、「申し訳ない。しかし、こうするより他にない」という犬丸の苦汁の心境までが表現されていて、ドラマの陰翳がよりいっそう深く濃い。
 あわせて筑波昭著「津山三十人殺し 日本犯罪史上空前の惨劇(新潮OH!文庫)」を読めば、実際の津山事件についてより深く知ることが出来る。

 21世紀の今日でも同調圧力が強い日本という国では、戦争中に生じたこの事件が、決して他人事ではない。「KY」や「ニート」やら、その手の言葉が、あまりにも軽々しくジャンクフードのように飛び交っている。
 その手の言葉をいとも容易く口にする人間は、総じて他者に対して鈍感である。自分の何気ない言葉、態度が、どれほど他人を傷つけているか考えようとしないのだ。
 そういう鈍感な人にこそ、この映画を観てもらいたい。そして、傷ついた挙げ句に、捨て身になった人間が、どれほど怖ろしいものなのかを感じて頂きたい。

 こうしている瞬間にも、「現代の犬丸」が、この国のどこかで、来るべきその日に向けて、密かに牙を研いでいるのかもしれない。なぜなら日本という国自体が、閉塞感に充ち溢れた巨大な村落なのだから。
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